「眠れない夜、きみは何を考えている?」
「明日のこと、今日のこと、今までのこと…」
「どうして考えるんだろうね」
「何か、不安なんだろうな」
「少なくとも、安心してはいないね。そもそも、どうしたら安心できるんだろうね」
「うん、安心って、自然に安心するね。不安も、自分の意思に関わりなく、自然に不安になる」
「つまらないことって、よく覚えているだろう?」
「覚えていてもしょうがないこと、よく覚えてるよ。いいことも一杯あったのに、いやなことばかりを思い出したりする」
「いいことには、意味がないのかもしれない。幸せは、自分のためにならないのかもしれない。いやなこと、不幸なことにこそ意味があって、それが自分のほんとうのためになることを、人間は本能的に知っているのかもしれない」
「つまらないことを思い出すのは?」
「実は、ほんとうはつまらなくない、きみに必要な抽象であるのかもよ! きみの知らないきみが、忘れてはならない大切なこととして、記憶に刻んでいるんだ。
しかし、きみの知っているきみには、つまらないとしか思えない。
記憶にとって、それは不当な扱いかもしれない。
だって、人間は、ほんとうに必要なものだけを覚えて、今まで進化を遂げてきたんだから。きみが忘れたいことは、とてもとても大事なことなのかもしれないよ」