愛しているのか、いないのか、分からないまま、男と女はラブホテルへ行った。
駅のそばにある、和風の旅館。ちょっとした旅行気分になる。都内の、どこにでもあるホテルなのだが。
男は、さっき女に声を掛けたばかり。
たまたま通りすがって、彼も退屈だったし、彼女も退屈そうだったから誘ったのだ。
「一緒にご飯食べない?」
喫茶店でトーストを少しかじって、お喋りした。そしてそのままホテルに直行。
一緒にお風呂に入った。
男は甲斐甲斐しく働いた。ふかふかした寝床を敷き、お茶を口移しで飲ませてあげたり、身体に付いているホコリを取ってあげたりした。
「ねえ、いっそ、ここを僕らの家にしてしまおうか」
男は夢見心地で女に言った。
女は黙って、じっと男を見つめている。
共に、働いた。月日が、あっというまに過ぎた。
やがて子どもが産まれた。女も男も、喜んだ。子ども達はすくすく育ち、家を出て行った。
だが、彼らの生活は長く続かなかった。せっかくの愛の巣が、ある日突然轟音とともに崩れてしまったのだ。
何が起きたのか分からなかった。
「ああ…」女はむせび泣いた。男も泣いた。
「仕方がない。これも僕らの運命だったんだ」
男は女を励ました。
「また、つくるさ」
夕暮れ前の電柱。
電線にとまって、崩れ落ちた屋根を見ながら、女が言った。
「そう、わたし達、人間様には抗えないものね」
「でも子ども達が巣立った後で、よかったのう」ご近所の老夫婦が声を掛けてきた。
「しばらく、うちに住みゃあいい」
「わしらも、よくこんな目に遭ったもんじゃ」
4羽のすずめが、夕暮れ空を飛んで行く。