創作と日常と

書いた「作品」らしきもの、また日常のこと、思うこと等々。

バナナムシ

 ── バナナムシっていう虫が庭にいてね。知ってる?
 ── いえ。バナナマンなら知ってますが。
 ── ホタルよりちょっと小さめで、形だけはホタルに似てる。その顔というか頭の部分が黄色くて、バナナみたいに黒い点々があるから、バナナムシって呼ばれてると思うんだけど。

 … アジサイとかの葉っぱにいて、身の危険を感じると、ツツッ、ってヨコに動くんだ。ヨコに動くことで、相手を驚かせるんだって。でもさ、ヨコに動くだけで、そんな、ねえ。俺がそばで見てると、ツツッ、ってヨコに動いて葉の裏に隠れたりするんだけど、こんなんで身を守れるのかって思うよ。

 ── まあ、人間から見たら小っちゃな動きでしょうけど、虫の世界ではその動きがとても大きいんじゃないですかねえ。

 … ついでにアゲハ蝶の幼虫の話── あれも敵が来たら頭からツノを出して相手をビックリさせるっていうんだ。で、フルーティーな香りを出すんだけど、フルーティーな香り出したら、敵、喜んじゃうんじゃないかって思うんだけどね。
 ── あれはツノを出した時、スキマができて、漏れちゃうんじゃないですかねえ。


 …… こんな「虫談義」を数分し、その他いろんな話をしたが… 奈良に戻ってきて、会話したを反芻すると、確かにバナナムシの「ヨコに動く」というのは虫の世界では凄いことなんだろうと納得するに至った。

 ヨコに動く! こんな虫はいない。みんな、タテだ。顔(頭)があったら、その前方、または斜めにしか虫は動けない。アリもカマキリもセミも、真横に動くことをしない、できない。
 でもバナナムシは真横に動く! これは確かに驚天動地、虫の世界にあってとんでもない動きだろう…

 青虫については、あのツノを出す際「漏れる」というのはないと思う。
 柑橘系にしかアゲハは卵をつけず、そこで育つ幼虫たちはその木の葉ばかり食べている。

 ハッサクや夏ミカンの葉は、それ自体にその香りがする。
 幼い子たちの体内は、その柑橘系の香りでいっぱいで、その頭から出すツノは、ツノ自体から発せられる香りなのではないか…

「漏れる」、本人の意志に関わりなく発せられてしまうところは同じだが。
 そう、人間だって漏れている… 自分の意志に関わらず、意図しないところから、どうしようもないその人の人間性のようなものが。個体の内部、性質が、性癖が、偏りが流露、発露する。
 ちっちゃい人間なんだ、わたしゃ。青虫の形こそしていないまでも。