創作と日常と

書いた「作品」らしきもの、また日常のこと、思うこと等々。

彼と私

 私が彼と知り合ったのは、いつだったろう?
 物心がついた頃から、一緒にいたような気がする。
 それ以前から、ずっと… 生まれる前から、一緒にいたような気もする。
 想い出せない。
 ただ私にわかるのは、彼と小さな頃から遊び、今もここで一緒に遊んでいるということだ。
 西の方から、ミサイルが飛んでくる。北の方では、人々が殺し合っている。

 それでも彼は、何も言わず、いつも私と一緒にいて、一緒に笑ったり、泣いたりしてくれた。
 おママゴトして遊ぶ時は、暖かい陽光みたいに包んでくれた。
 宿題をする時は、見えない時計みたいになって、じっと私に寄り添ってくれた。
 お勤めを始めても、彼はいつも私のそばにいてくれた。
 恋人ができた時は喜んでくれた。別れた時は、悲しんでくれた。

 私はきっと、いつもひとりではなかった。
 コドクだと思っても、そう思える私を、彼はいつも見守ってくれていた。
 でも、この頃、彼はおかしい。
 いっぱい泣いて、家を水浸しにしたり、やたらカッカして、燃えるような吐息で道を満たしたり。
 あまり、笑うことがなくなった。

 彼は、傷ついている。
 私が、悪かったんだ。
 ゴミもいっぱい出したし、朝のゴミ出しは私のしごとだったけど、それは当たり前のことだった。
 ミサイルも、止めるのは、他の人のやることだと思って、何の声もあげなかったよ。
 戦争が始まった時も、私は何もしなかった。
 彼は、それでも、ここにジッと、いてくれている。

 こないだ、彼の声を聞いた。「あんまり、いじめないでくれよ」「ぼくはただ、ここにいるだけなんだ」
 ごめんね、ごめんね。私は言った。そんなつもりじゃなかったんだ。それがフツウだと思っていたんだ。そうなってるんだ、仕方ない、と思っていたんだ。
 甘えていたんだね。

 彼は言った、「いつも、始まりなんだよ。終わり、なんてものはない。きみの身体をみてごらん、目に見えないものが、いつも生まれ変わってる。きみは、いつも新しいんだ」


「始発があって、終点はあるよ。でも、それは目に見える電車みたいなものだよ。目に見えるだけで、それが全てではないんだよ。きみは、生きてるだけで、すごいことをしてるんだ。みんな、すごいんだよ。でも、それを見つめようとしないんだ。目に見えるものばかりを追い求めて」

「生きてるだけでいいんだよ。そしてきみも、いつか死ぬ。そうしてぐるぐる、循環しているんだ。ただ、生きてる時だけ、感じられることがある。ぼくもただ、繰り返しているだけだよ。ぼくはぼくとして。きみはきみとして。だからこうして、一緒にいられるんだよ」


「ヒーローなんて、つくりあげちゃ、いけないよ。きみはいつも、そういうものを求めてきたようだけど。あっちの国でも、こっちの国にも、英雄視される人物がいるね。ちいさな世界だよ」

 たぶん彼は、ずっとここにいる。私が、ここからいなくなっても。
 ずっとここにいて、… 彼がいたから、私や、ヒトとよばれるいきものが、ここにいるのかもしれない。いろんな、いろんないきものが。
 私にとってのヒーローは、── 暗い風を吹かせたり、明るい光で照らしたり、湿らせ、乾かし、ぐるぐる回る、地球みたいな彼だった。
 ほんとに、永遠のヒーローだったよ。