「ねぇきみ、ひとりで空想しているうちは楽しかったねえ。でも、飽きちゃったね。せっかく、ふたりになれたのに、飽きちゃったね。実際につきあって、恋人どうしになったりしたら、もうダメだね。ひとりで、十分幸せだったんだよね。でもタイムマシンで戻ったとしても、また同じことを繰り返すんだろうね」
男はそう言うと、口をつぐんだ。
しかし、なんでわれわれはひとりじゃやっていけないのだろう。どうして淋しさにやられ、誰かを求めようとするのだろう。
「私はふたりでも大丈夫よ。私、ひとりでいっぱい抱えているものがあるから、ふたりだろうが何人だろうが関係ない。私はあなたの恋人でもないし、あなたは私の恋人でもない。私たちは誰のものでもないし、私は私、あなたはあなたなのよ」
女はそう言うと、口をつぐんだ。
男は思う、それは本心なのだろうか? ほんとうにそう思って、そう言っているのだろうか? だとしたら、オレ達、何のためにつきあっているんだろう? オレ達は、一体どういう関係なんだろう?
女は台所に立ち、オレンジをむき始めた。ああ、俺の好きなオレンジだ。ああ、俺の大好きだったオレンジだ。しかし… ほんとうだろうか。俺はほんとうにオレンジが好きだったんだろうか。
「はい」女は食卓に持って来た。男は、むしゃむしゃと食い始めた。