あっちこっちで爆撃、砲撃の音が聞こえる。
遠くで聞こえる、近くで聞こえる… 日常茶飯だ。
Aは窓辺に立って、その音の方向を睨みつけている。なるべく近くの方向を。
彼は戦争を憎んでいた。自宅に着弾し、死ぬなら本望だ。
人間どもの愚行、この眼に焼きつけて死んでやる。俺は逃げも隠れもしない。
── 彼は勇ましかった。無抵抗の抵抗を地で行った。戦車がやって来ると、彼は玄関を飛び出て、立ちふさがった。近所の人間どもがカーテン越しにそれを見ていた。
終戦後、彼らは市長に進言した、「あの人はこの町を守ろうとしました! 私達は見たんです、彼が戦車の進軍をひとりで止めようとしたのを…」
彼は表彰された。石像さえ造られた。もうこの世にいなかったが。
あの世で彼は裁かれていた、「お前は元々厭世主義者だったな。戦争これ幸い、自殺する手間が省けるわい、と自ら進んで戦車の前に行った。それまでのお前の頭の中といったら、死にたいことしか考えていなかったくせに。武勇を気取って、あこぎな真似をした罪で地獄行きだ」
裁判官はガベルを振った。
この世で彼は小さな町の英雄、あの世で彼はちょっとした大悪党。