創作と日常と

書いた「作品」らしきもの、また日常のこと、思うこと等々。

交差点

 連れとふたりで、歩いて買い物に行く途中、信号待ちをしていた。
 青に変わるのを待っている間、ぼくらの横に、若い男女のカップルがしゃがみ込んでいた。

 彼らの足もとに、1匹の犬が、伏せの格好をしていた。犬は、暑いのか、ハァハァ舌を出して息をしていた。彼らはペットボトルの水を、犬に与えていたようだった。
 見れば、ふたつの自転車が傍に置かれている。彼らは、その犬の飼い主ではなく、何か少し困っているようだった。

 信号が青になったので、ぼくと連れは歩き出した。しかし何か気になって、「声、かけてみる?」と連れに聞いた。連れは、「うん」。
 で、戻って、「どうかされたんですか、ワンちゃん…」と声をかけてみた。
「迷い犬らしいんです」と若い男がいった。「よろよろ歩いていて、車に轢かれそうだったんで…」

 連れは、「こないだの犬じゃない?」とぼくにいう。そう、いつか通りすがりのぼくにスリスリしてきて、飼い主さんに「あら、甘えてるわ」といわれた、あの犬である。

 あれ、こんなワンちゃんだったっけ… あのときは目を輝かせて、笑ってるようにぼくになついてきてくれたけど、今はその面影もなく、なんだか疲れている様子だった。

「違うと思うけどな…」 でもあの飼い主さんの家に行って聞いてみるか。事情を話し、しゃがみ込みを続けるカップルに「ちょっと待ってて下さい」といい、その家へ向かう。
 記憶力のいい連れは、その家の場所を覚えている。この交差点を渡ってすぐ、二軒目か三軒目だった。

 玄関は開け放しになっていて、犬の鎖はあったけれど、犬の姿は見えなかった。
「こんにちはー! ワンちゃん、いますかー?」 連れがいう。飼い主さんが出てきて、「はい、いますよ… あれっ、いない…」
「あの信号の向こうで、車に轢かれそうになっていたらしくて、男の人と女の人が助けてあげていたみたいです」ぼくがいう。
 飼い主さん、びっくりである。たしかに老犬で、歩くのも大変そうだったし、片側二車線で路面電車も通る大きな道路の向こう側まで行ってしまうとは、思っていなかったようだった。

 こないだ、なついてくれた時も、あのワンちゃんはこの家からひとりで出てきて、また家に戻ろうとしている時に、ぼくを見つけて寄ってきてくれたのだ。

 3人で、若いカップルとワンちゃんの待つ場所へ向かう。信号は赤だった。でも、向こうにいるカップルも、ぼくらの姿を見て、笑顔。

 ワンちゃん、よかったな! 若いカップルも、優しくて立派だった! 気持ちが、なんだか、ほくほくした。
(いつかの夏)