創作と日常と

書いた「作品」らしきもの、また日常のこと、思うこと等々。

誰も知らない ④

「お前さん、死ぬのが恐いんだろ。そらそうよ、何度も痛い目に遭ってきたんだからなあ! その記憶がなければ、何も考えず、とっとと死ねたのになあ! 要らんことばかり覚えてやがって、肝心なことを忘れちゃいねえかい?
 なあ、人間なんかになり下がっちまってよお。よかったろう? あの頃の方が。よかったろう? ムリすんなよ、さあ、楽になろうぜ。痛いのなんて一瞬さ。その後は、うふふ、懊悩も煩悶もないパラダイスさ!」

 また声がする。
「ねえ、宇宙も呼吸してるんだよ。その身体みたいに。星もぐるぐる自転している。きみの命も、そうなんだ。回ってるんだ。きみは宇宙の全体でありながら、星の1個でもある。だからそこにいるんだよ。きみは、きみでありながら、きみでないものとしてそこにいるんだ。いつだって、そうなんだ。どんなものでも、それは同じだよ」

 ああ、ぼくは狂ってしまったんだ。葉っぱが喋るわけがない。

「世界って、何だと思う?」
「そうだよ、人間って何だと思っているの?」

 世界だろ。人間だろ。
 それ以外に、何がある。

 ふたりの童子が、ぼくの耳元で飛び交いながら言う。
「それは、そう見えるだけ。つかめやしないよ」
「そうだよ。つかもうとすることができるだけ」

 もういいよ。あっちへ行ってくれ。

「よくない。やっとこうして話すことができるんだ。またきみが死んでしまったら、いつ話せるか分からない」

 ふたりの童子は、あどけない声でぼくの耳に囁いた。
「あのね…」
「実は、もう、終わっているんだよ。決まっていたことなんだ」

 え? 何が。

「誰が決めたものでもない。そうなっているんだ。きみは自殺しなかった。よく生きたよ。おめでとう。よく頑張りました。でも、ここに来るちょっと前、きみの心臓、寿命を迎えてね。覚えてる? 覚えてないか、死のうとして一生懸命だったからなぁ。その心だけが今も残っているけれど…」

 ああ、あの時か。

 ぼくは天に上がった。
 また落ちて、また上がった。
 水滴になって蒸気になってを繰り返した。
 海の上にもアスファルトの上にも、叩きつけられるたびに、はじけて、また上がった。数えきれない、たくさんの仲間たちと一緒に。

 

「あのね」
 童子が囁く。
「さっき、あの青い星も消えたよ。よくやってたんだけどね」